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前橋家庭裁判所 昭和41年(少ハ)1号 決定 1966年4月02日

本人 O・C(昭二〇・四・一二生)

主文

少年に対する収容継続はこれを許さない。

理由

一  少年院長の申請の要旨

少年は昭和四〇年四月七日、少年院送致の決定を受けたもので昭和四一年四月六日期間満了となるが、次の理由によりなお矯正教育の必要があるものと認められるので、少年院法第一一条第二項以下による一ヵ月間の収容継続の決定を申請する。

即ち、少年は過去二回の反則(昭和四〇年八月二六日逃走未遂同年九月八日暴行)により進級が遅れ、最高処遇段階である一級上に達するのは四月一日頃が予想され、少年の成績は入院時より一段と向上し落着いた日常生活を送つているが必ずしも安定した状態とは認められず、引続き積極的な更生意欲と勤労意欲を喚起し、併せて社会復帰の準備期間のためにも、一級上に達してから後一ヵ月間の教育期間を必要とするものである。

二  調査審判の結果認められる主たる事実

1  少年は、昭和三六年一〇月二六日(暴行・恐喝)不開始、昭和三八年三月四日(暴行)不開始、昭和三八年五月一五日(傷害)不処分の処遇の後、暴行、強姦非行により昭和四〇年四月七日当庁において中等少年院送致の決定を受け、同月一〇日八街少年院に収容された。

2  少年の処遇経過は、昭和四〇年八月一日二級上進級、同月二六日逃走未遂により三級に降下謹慎二〇日、同年九月八日喧嘩により訓戒、同年一〇月一日二級上進級、同四一年一級下進級同年四月一日一級上進級というもので、入院初期にはなげやりな顕示的行動が見られたが、右反則事故後は努力して抑制につとめ、漸次明るさも加わつて落着いた生活を送り、六ヵ月以上無事故という良好な成績を納め、本人なりに向上が認められる。

3  少年の知能は限界級にあり、性格は自己顕示性が強く、発揚的・自己中心的で、恣意的・放縦的な面があり、即行、爆発の問題があつたが、院内の生活を通じ職員の適切な配慮により次第に矯正の効果をあげ、現在時点においては、特段の社会復帰に障害となる資質上の問題は考えられない。

4  少年は、退院後の職業としては、所持している大型自動車運転免許の技能を生かして、砂利運搬業を異母兄O・I(三〇年)と共同してやる予定である。

5  少年の帰住予定地は、兄O・I(昭島市○○××××)方があてられ、保護者等は積極的に環境調整の配慮を講じ、一日も早い退院を望んでいる。また、従前の非行グループは、本件補導を契機として分散し、若くは施設収容の処分を受けているので、少年が再び交流する危険は考えられず、家庭の受入体制上、少年の復帰につき障害となるような事由も見当らない。

三  当裁判所の判断

右の主たる事実、その他、調査・審判の結果認められる諸般の事情を総合すると、少年に対し収容を継続するにはいささか疑問なしとしない。

なぜなら、本件においては、少年が累進処遇の最高段階にようやく到達したということは認められても、その他収容を継続しなければならないだけの理由が裁判所の心証に映じないのである。累進処遇の制度は施設における一つの測定尺度として、また矯正効果の数値的表現として、或いは矯正者の実現目標としての効用を有していることは否定できないが、この段階自体が完全なものとして、直に矯正度を科学的適確性をもつて示すものでないことは、現在の少年院における運営の実状からして自ら明らかなところである。しかも、本件の場合、少年の一級上への進級が遅れたことは、前記逃走未遂事故が原因であつて、それ以外の原因は考えられず、右事故も入院当初の不安定期において古参の少年からはげしいリンチを受けてそれからの逃走とあせりから無目的になされたもので、少年の責任のみを追求するのは酷であるばかりか、すでに謹慎処分すら受けており、その後数ヵ月にわたつてひたすら更生に努力して来た少年に対し、そのことの故に退院を遅らせるとこは二重の不利益を蒙らせる結果ともかなりねない。結局は累進処遇の段階は一資料にすぎないものであり、少年の個性と発展に応じ、より個別的に少年の資質、環境等に鑑みて、社会復帰を阻害する何等かの事由が存在し、かつ、今後の施設における教育効果によつて、これ等阻害事由を除去する必要性ありと認められる場合にのみはじめて、少年院法第一一条第二項所定の継続収容の要件が充足されるものと解されるのである。しかるに、本件においては、これ等事実を認めるに足りるだけの資料は存しない。かえつて、少年院における矯正教育に併せて、保護者の熱意とこれによる環境調整の結果、一応矯正の目的を達したものと認められるのである。

勿論、少年の資質と生活史に照らし、現在の少年が完全無欠の社会人ということは困難であり、今後、少年院の教育により今日までの成果に更に磨きをかけ、より教育の効果を進めることは否定できないところである。そしてまた、収容定員を超過する少年達を担当しながらも、なお、少年への愛情と善意から、継続して少年を指導したいとする少年院の努力に敬意を表するにやぶさかではない。継続収容が少年にとつて有為性の存することは是認できるところである。しかしながら、教育の名の下に少年の人権と自由を無制限に拘束することも亦妥当ではない。継続収容はあくまでも、少年法の例外であり、例外は厳格に解釈しなければならない。継続収容をしなければならぬ積極的理由を見い出し得ない以上、まもなく二一歳に達する少年に対しては、幾分の不安はあつても成人としての責任と自覚の下に社会人として生活させることが、教育的見地からも、人権保障的見地からも妥当ではなかろうか。

四  結論

以上によれば、本件については、継続収容の理由並びに必要性について、十分な心証を得られないので、少年に対しては収容継続を認めないこととし、主文のとおり決定する。(なお、収容継続申請事件の審判は、少年院長の申請を契機とするもので、審判の対象は、少年に対する要保護性の存否そのものであると解するので、とくに申請に対する却下の言渡はしない。)

(裁判官 大塚喜一)

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